社員の人材開発は不要不急の経費?

コロナ禍や不況下では未来に期待をかけて子供への教育投資が増える傾向があります。翻って企業による社員への教育投資の多くは抑制傾向です。でも、社員教育と企業業績の間に科学的に証明された大きな関係性があり、日々競合に水をあけられているとしたら、困ります。 いくつかチェックするのが安心でしょう。

子供を対象とする学習塾のビジネスは、少子化によって難しい局面を迎えているといわれます。ただ、学習塾というビジネス自体は不況による影響が少なく、むしろ厳しい経済環境であればあるほど、子供への出費を控えるどころか、むしろ手厚くしたいという親心が働くと、一般的に考えられています。

同じ教育事業でも、企業研修、すなわち企業が社員の能力を伸ばすための人材開発費は不況時に真っ先にコストカットのメスが入る分野です。この分野に身を置く者としてうれしくはありませんが、筆者の気持ちは脇に退けるとしても、組織や企業の人材育成に関わるものとして、考えておきたいことがあります。

同じ人材への投資なのに、なぜ子供への教育投資は予算がむしろ増額され、社員への教育投資は、カットされるのか?

人間が、どんな出費を増やし、どんな出費を削減するか考えてみれば、大きな要因は明快です。子供への投資を活発に行うのは、それが重大だから、つまりそれによってより良い未来を手に入れようと期待をかけるからです。つまり子供への投資には大きな価値があります。

一方で企業における社員教育では、投資すれば会社の将来に希望が生まれるという確信が持てないわけです。丁寧に表現するならば、余裕があるときなら費用を使ってもいいが、余裕がない時に継続するほどの価値を感じないから、不要不急のものだとは思えなくなります。

ではなぜ、子供の教育投資なら成果に期待できると思えるのでしょう。それは子供に投資することで得られるメリットがはっきりしているからです。投資がもたらすリターンは、成績アップ、難関校への合格、好条件の就職、より良いキャリアなど、イメージがしやすく、短期的あるいは長期的に結果が目に見えるものです。

一方、企業における人材投資は、
【A】
1.無理して続ければ、企業の未来がより良くなるだろうと確信が持てない。
2.良くなるとしても、効果の大きさに確信が持てない。
だから、人材開発への投資は不要不急のものと見なされます。

これは、人材投資が企業業績を向上させるかどうか不明だし、向上したとしても、その効果は大きくないという前提に立つ考え方です。もしその前提が誤りだとしたら、どうなるでしょう。

すなわち、次の2つの考え方こそが真実だとしたらどうでしょう。そして国内外の競合が日々積極的な人材投資を行って、大きく水をあけているとしたら…?
【B】
1.人材投資は企業業績や各種の経営指標を向上させる。
2.その効果は無視すべきでないほど大きい。

【A】と【B】のどちらが正しいのかは、「どんな社員研修をしているのかによりけり」です。とはいえ人材開発の分野には、ビッグデータ解析を通して企業業績を向上さえる効果が実証されている研修や手法があります。また、筆者たちはコロナ禍でも人材投資の手を緩めない企業を数多く目の当たりにしています。

重要性を痛感していて、やむを得ない事情から教育投資を抑制するのと、不要不急だと考えているから、何の憂いもなく教育投資を抑制するのとは、まったく違います。もしも後者なら、なぜ、不要不急なのか点検するのが安心というものです。

たとえば、
✓企業業績との関係性があやふやなまま、「この能力は社会人が身につけるべきものだから」という主観や価値観に基づいて研修や施策を選択していないか。
✓企業業績を向上させるはずだと(誤って)思いこんだまま、データや科学的な裏づけがない研修や施策を選択していないか。
✓自社のパフォーマンス向上のカギとなる能力を、具体的に把握しているか。

上記はデータドリブンな戦略的人事の教科書やガイドブックでは頻繁に取り上げられるチェックポイントの中のほんの数例に過ぎません。

もっとも、あらゆる研修や施策の効果をビック・データで証明することも非現実的ですので、それについては、別記事、「データドリブン人事が研修を選定するとき、知っておきたいことは何か?」をご覧頂ければと思います。

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