データドリブン人事が研修を選定するとき、知っておきたいことは何か?

ビジネスの課題に対して、データを取り入れた意思決定や判断をすること、それをデータドリブンという呼び名で表すことが、多くの人に理解され歓迎されるようになってきました。

人事の分野でもデータドリブンの人事戦略という言葉が広まっています。データドリブンの人事は、当然ながら採用や評価、従業員満足度や定着率、福利厚生、報酬制度、そして人材開発と育成など、人に関わるあらゆるものごとに関わるコンセプトです。

そのゴールは、多くの戦略的方針決定をデータが指し示すものに基づいて行うことです。前提として「そもそもデータは適切に収集されたのか?」という問いは極めて重要で、それ自体が大きなテーマですが、ここではデータが適切に収集されたという前提で、冒頭のテーマについて進めます。

※不適切なデータ収集の例:
① 男性社員の育休取得に関する意識調査で、3世代同居が一般的な地域の男性社員のデータと、都心で共働きをしている男性社員のデータが混ざっている。
② 「きっとこうに違いない」という自分なりの考えがあり、その考えを証明するのに都合がよいデータを意図的に、または気づかずに収集している。

アフターコロナのデータドリブン人事戦略の一翼として、人材開発分野でもデータの活用がますます進むことになるでしょう。データドリブンな人材開発では、具体的に何が、どうあるべきでしょう。人材開発の代表的な手法である研修を選定する状況をイメージしながら、研修におけるデータドリブンとは何かについて考えてみます。ここで想定している研修は、ルールや制度の説明を主目的とする研修ではなく、人材のレベルアップや能力強化やキャリア推進を目的とする研修です。

【コンテンツ】データドリブンな研修とか科学的な研修を語るなら必ず話題になるのが内容そのもの、すなわちコンテンツです。研修における「何を」教えるのかにあたります。近年は世界の論文や理論に基づくコンテンツを教える研修が、豊富に入手できるようになりました。

【研修設計】映画を製作するときに、なんとなく人を集めて、なんとなく撮影する監督はいません。設計段階で考えるべきことが山のようにあります。いくつか例にとってみます。
1.何を伝えたいのか?感じてもらいたいのか?
2.(特に社会問題がテーマなら)視聴後にやってもらいたいことはあるか?それは何か?
3.どんな場面設定で伝えるか?スパイ映画か?家族の物語か?オープニングは回想シーンか?今の出来事か?
4.どこまで話題を広げるか?どこまで深く掘り下げるか?
5.盛り込むシーンをどの順序で展開するか?
6.映画の長さはどれだけか?30分か3時間か?
7.どのシーンに何に、何分使うか?
8.誰に伝えたいのか?メインの視聴者は誰か?
9.その他

リストは延々と続くでしょう。これは映画製作の初期にあるコンセプト・メイキングの作業にあたります。つまり「どのように」伝えるのか、設計している段階です。

お気づきの方もいらっしゃると思いますが、研修設計は映画製作ととてもよく似ています。設計段階では、「これはコンテンツを頭で理解してもらうための研修か、それとも行動に移してもらうためのものか?」「理解できたことを、途中で確認するチェックポイントは必要か?」「どのようにチェックするか?」「理解度をチェックすることで、参加意欲は高くなるか?低くなるか」「どんな議論や演習を盛り込むか?」「すぐに行動できそうか?」など、多くの詳細が決定されます。この段階では学習理論や行動理論、インストラクショナル・デザイン等が十分に活用できているか、矛盾していないかなどもチェックされます。

言うまでもなく研修選定にあたっては、研修に期待する用件や基準が、当該の研修の設計のコンセプトと一致しているのかどうかの確認が必要になります。

【見直し】映画製作では試作品を上映してみて、何度も手直しが繰り返されます。この部分も研修設計と似ています。

ペーパーテストで理解度が確認できるようなコンテンツは別として、リーダーシップや対人関係スキル、戦略的な思考やタイムリーな意思決定など、研修のコンテンツを行動に移すことが最終目的である場合、『何パーセントの人が行動したか』『行動しなかった人はどこで、なぜ間違ったのか?』『やる気を失ったのか?』などを確認しながら、設計を手直しします。

ここで厄介なのが、それにはまず、誰がいつどんな行動をしたのかのデータが必要だということです。

それだけでも大変なのに、現実には研修直後に行動に移す人もいれば、何年か後の人もいます。何年か後の行動が研修のみの効果なのか、研修と+αの組み合わせの効果なのか、+αとはフォロー研修だったのか、職場環境だったのかなど明らかにして、設計見直しをするには、大掛かりな行動分析と統計調査が必要になります。

おまけにある部門やグループの特別な能力や風土のおかげで偶然うまくいったわけではないことも確かめたいなら、文化が異なる多くのチームや企業と、世界各地での調査が必要です。文化の違いを超えて利用される研修プログラムに、長い開発期間を経て開発されたものが多いのは、高い確率で効果が出ることをデータで確認しているからです。

データドリブンに設計された研修を実施したいなら、上記のプロセスを経て十分に科学的に効果が実証された研修を探すことになります。

【講師】映画製作ならば、設計と設計見直しがきちんと行われた台本があれば、一定基準を満たした俳優たちが、きちんと映画を作り上げてくれます。
(注: ここでは主役級の大俳優の話は除外させて頂ければと思います。主役スターは、映画のコンセプトもさることながらそのスターの魅力で人を惹きつけることがあるからです。)

データドリブンに設計された研修では、これもまたデータドリブンに設計された講師養成プログラムにのっとって講師が養成されることがほとんどです。プログラムを終了した講師は、一定の基準を最初から満たしているので、講師の能力のバラつきよりも、年齢や性別、パーソナリティや職歴など受講者との相性レベルのマッチングにだけ注意を払うことが多くなります。

一方、開発プロセス、とくに設計見直しと講師養成がさほどデータドリブンでない研修は、教える講師によって研修効果に大きな違いが出ることもあります。そのような研修実施では、長年のお付き合いがあって信頼している方を選んだり、デモを見せてもらったりして選定される方が多いでしょう。

付記: データドリブンの度合いを意識的に選択する

この記事ではデータドリブンな研修を実施したい場合、どのような観点をチェックすればよいのか書いてきました。とはいえ、研修プログラムのすべてについて、常にデータドリブンを追求する必要はあるでしょうか。

現実には、データドリブンではないことがわかっているが、それで良しとしよう、と割り切る方が合理的な場合がでてきます。たとえば50人を対象とするプレゼン研修が必要だが、事情があって、自社独特の状況に合わせて教えて欲しい。開発に手間暇かけたりせず、だいたいで進めたい、と判断するような場合です。

そのような場合でも、データドリブンに開発された研修とそうでないものは何が異なるのか、とくに、データドリブンでない研修を選択することによって失うものは何かを正しく把握しておくと、自組織のニーズを最大限に満たせる研修商品を選定しやすくなります。

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